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松江地方裁判所 昭和47年(ヨ)26号 判決 1973年1月25日

松江市法吉町大界五〇番地三八

申請人 石坂隆明

右訴訟代理人弁護士 中根寿雄

同 田村恭久

同 森脇孝

松江市堂形町八〇三番地

被申請人 宗教法人世界救世教隆光教会

右代表者代表役員 杉谷正雄

松江市片原町二五番地

(登記簿上の住所 出雲市大津町一一七三番地一)

被申請人 杉谷正雄

熱海市桃山町二六番一号

被申請人 宗教法人 世界救世教

右代表者代表役員 川合尚行

被申請人ら三名訴訟代理人弁護士 米岡弘泰

同 阪岡誠

同 沢井勉

同 平山辰

主文

申請人が被申請人宗教法人世界救世教隆光教会の代表役員の地位を有することを仮に定める。

被申請人杉谷正雄は被申請人宗教法人世界救世教隆光教会の代表役員の職務を行なってはならない。

被申請人宗教法人世界救世教隆光教会は申請人に対し、昭和四七年四月一日から本案訴訟確定の日まで毎月末日限り、一ヶ月金一五万円の割合による金員を仮に支払え。

申請人の被申請人宗教法人世界救世教隆光教会および被申請人杉谷正雄に対する

その余の申請ならびに宗教法人世界救世教に対する申請人の申請を却下する。

申請費用はこれを三分し、その一を申請人の負担とし、その余は被申請人宗教法人世界救世教隆光教会と被申請人杉谷正雄の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、申請人

1  申請人は、昭和四七年四月二五日被申請人宗教法人世界救世教隆光教会の代表役員(教会長)を解任によって退任せず、従前どおり代表役員(教会長)の地位を保有するものとする。

2  被申請人宗教法人世界救世教が昭和四七年四月二五日被申請人杉谷正雄を被申請人宗教法人世界救世教隆光教会の代表役員(教会長)に選任した行為の効力を停止する。

3  被申請人杉谷正雄は、被申請人宗教法人世界救世教隆光教会の代表役員(教会長)の職務を行なってはならない。

4  申請人は、昭和四七年四月二五日被申請人宗教法人世界救世教の責任役員(理事)を解任によって退任せず、従前どおり責任役員(理事)の地位を保有するものとする。

5  被申請人宗教法人世界救世教隆光教会は、申請人に対し昭和四七年四月一日から本案訴訟確定の日まで一ヶ月金一五万円の割合による金員を毎月末日限り支払え。

二、被申請人ら

本件申請をいずれも却下する。

第二、当事者双方の主張

一、申請人の申請理由

1  被申請人宗教法人世界救世教(以下たんに被申請人教団という)と、被申請人宗教法人世界救世教隆光教会(以下たんに被申請人教会という)は、包括、被包括の関係にある宗教法人である。

2  申請人は被申請人教会の代表役員(教会長)であるとともに被申請人教団の責任役員(理事)の地位にあったが、被申請人らにおいては、申請人の右地位が被申請人教団によりいずれも昭和四七年四月二五日解任されたと主張するとともに被申請人教会の新代表役員(教会長)として被申請人杉谷を任命し、申請人については代表役員解任の、被申請人杉谷については代表役員就任の各登記が経由されている。

3  しかし被申請人教団による申請人の解任行為については、その解任の根拠ならびに理由が存在せず無効なものである。また被申請人杉谷に対する前記任命行為も手続に違背して無効である。

4  申請人は被申請人教会の代表役員(教会長)として、同教会より一ヶ月金一五万円の給与を毎月末日に支払いをうけていたが、前記解任にともない右給与の支払いを昭和四七年四月一日以降うけていないので、これがため経済的にも困窮した状態にある。

5  以上のとおり申請人は被申請人教団により不法にその責任役員(理事)たる地位ならびに被申請人教会の代表役員(教会長)たる地位を解任されたので、いずれその解任無効の訴を提起する予定であるが、その本訴の確定をまっては、それまでに申請人は回復することのできない損害を蒙り、しかもその精神的、財産的損害は甚大で、これが早急の救済を求める必要があるので、本件仮処分申請に及んだ。

二、被申請人の答弁および主張

1  申請理由の1、2の事実は認めるが、その余の事実はすべて争う。

2  被申請人教団は、昭和四七年四月二五日申請人を被申請人教会の代表役員(教会長)ならびに被申請人教団の責任役員(理事)の職からそれぞれ解任したが、その解任の根拠および理由は次のとおりである。

3  解任の根拠および理由について

(一) 第一次的主張

(1) 被申請人教会の規則(以下たんに教会規則という)三五条には、被申請人教会に対しても包括団体である被申請人教団の規則(以下たんに教団規則という)の効力が及ぶ旨定められており、さらに教団規則六六条には、規則を施行するための細則は教規または規程で別に定めると規定されている。そして教団規則六六条にもとづく審定委員会規程四条三号には、審定委員会は懲戒に関し審決する旨を明記しており、さらに同じく教団規則六六条にもとづく懲戒規程には、懲戒手続の方法(二条)、懲戒の種類(三条)、懲戒事由(四条)が、それぞれ規定されている。よって右各規程の効力は被申請人教会に対しても及ぶものである。

(2) 申請人には次のとおり懲戒事由に該当する事実がある。

(イ) 申請人は昭和四七年三月一七日以降被申請人教会に姿を見せず、かつ連絡もとらないで行方をくらまし、同教会の代表役員(教会長)ならびに被申請人教団の責任役員(理事)および教議員としての職務を全く放棄したまま、現在に至っている(職務上の義務違反として懲戒規程四条八号に該当)。

(ロ) 申請人は昭和四七年三月一六日、大久保智正外一六名と連名で被申請人教団に対し、「世界救世教の現状並に被包括教会の吸収合併に関する公開質問状の件」(以下たんに公開質問状という)と題する文書を提出し、同時にこれと同一の文書を堀内勝子外多数の被申請人教団の被包括法人である各教会の教会長や支部長等二四五名以上に配布した。その中で申請人らは「最近右翼団体である日本民主同志会(以下たんに日民同という)の中央執行委員長松本明重が、教団の外事対策委員長という要職を占め、教団は日民同の宣伝活動に利用されつつある」とか、「右松本は教会長某や役員某に対し暴力沙汰に及んだとのことである」とか「言論圧迫の現実に対し」とか「土地売買に関しては新京開発株式会社の元持悟に格別の便宜を与えたものである」とか「恒心館の買入及び改修に関し、教主様の御意見を無視し、心ある教議員の反対を押えて、これを実施した責任者は自らその不明の責任をとるべきではないかとの声が多大である」とかの事実無根の記載をした。

さらに申請人は、昭和四六年一〇月七日、被申請人教会御神前において、教会幹部多数の席上、「川合(被申請人教団代表役員)、松本は教主様をないがしろにしている。この体制のまま教団が進めば教主様は利用されるだけである。教義がゆがめられ、明主様の創業の精神から完全に逸脱しつつある」とか「教主追放、川合教主ができるおそれがある」とか「川合人事は一党独裁であり、人事は自分の取巻きによって占められている」とか、昭和四七年一月二日、被申請人教会御神前において、教会幹部多数の席上、「右翼化された救世教、日民同化された救世教、一歩あやまれば日民同のための救世教になりかねない」とか、「松本明重は三好(昭和四四年五月ごろ教団を退いた元顧問)の二代目か」とか、同年同月三〇日、被申請人教会において、世話人研修会約五〇名の席上、「救世教は世界の名画、色々な色があってこそよい。赤一色、黒一色でもいけない」とか「救世教は日民同のための救世教ではない」とか、昭和四六年一一月一六日、被申請人教会御神前において、世話人約四〇名に対して「本日の山陰地区教区制指導研修会は、いいかげんにきいておけばよい」とか、いずれも多数人の面然で公然と発言した。

このような申請人の言動は、無根の事実にもとづいて被申請人教団、日民同ならびに川合、松本各個人の名誉をいちじるしく傷つけ、ひいては被申請人教会の信用を失わせたものである。

(ハ) 包括法人である被申請人教団と被包括法人である被申請人教会外七十一教会との吸収合併を阻止しようとして、前記大久保智正らと共謀のうえ、昭和四七年三月一六日、所轄庁である文部大臣、文化庁長官、関係官庁である都府県知事、被包括法人である各教会教会長らに提出又は送付する目的で「世界救世教の被包括教会の吸収合併に関する嘆願書」(以下たんに嘆願書という)と題する連名の文書を作成し、その際大槻一雄、篠原正作外一〇名の承諾がないのに、勝手に同人らの氏名を右嘆願書の名義人の一部として記載し、右のように偽造した嘆願書を前記諸官庁、教会長らに送付して行使した(文書偽造、同行使として同規程四条九号に該当)。

(ニ) 前記吸収合併を阻止する目的で、被申請人教会代表役員の地位を得ようとして、昭和四七年二月二五日、当時の代表役員代務者被申請人杉谷作成名義の辞任願書一通、会員代表杉原正三作成名義の辞任願書一通および杉谷初野作成名義の架空の同月二〇日付責任役員会議事録一通をそれぞれ偽造したうえ、同年三月五日ごろ、これを被申請人教団に提出して行使した(同前)。

(ホ) 申請人は昭和二九年三月一〇日ごろから被申請人教会の代表役員(教会長)の地位にあったが、昭和四五年二月二〇日被申請人教団の理事に任命されたので、同年四月一〇日被申請人杉谷が被申請人教会の代表役員代務者になった。しかし申請人の代表役員(教会長)としての地位は存続していたので、申請人はその地位を乱用し、その職務に反して、約一〇年前から幽霊会員約八九八名を作り、その幽霊会員の会費として被申請人教団より被申請人教会に交付された下附金から約八二、六〇〇円を毎月被申請人教団に支払い、右金額相当の損害を被申請人教会に生ぜしめた。これは教団の理事たる資格を得るには教会の会員数を水増しする必要があったためである(職務上の義務違反として同規程四条八号に該当)。

(ヘ) 申請人は被申請人教団での幹部会に出席しても、その議事内容を教会の幹部や信者に伝えず、握りつぶしている。教団の機関誌「栄光」の記事などについても、ことさら歪曲して信者に説明している(同前)。

(ト) その他申請人には暴力行為等がある。

(チ) 申請人は徳行を欠き、被申請人教会におけるその行動は従来から独裁的で、ただいたずらに教団批判をするのみであった。代表役員(教会長)としての能力がなく、幹部、役員、世話人には全く帰依されていない、きわめて少数の例外を除き、信者も申請人には信服帰依せず、申請人によって教義の宣布や儀式の執行がなされることになると、信仰生活は破壊され、信者の信仰の自由が奪われる。

(リ) 右のような理由により、被申請人教会の責任役員と会員代表から被申請人教団宛に申請人の代表役員(教会長)解任の願出書が提出されている。

監事、支部長、出張所長、資格者からも同様の要望が行なわれている。地区教会長会、地区青年委員会等からも同様の願出書が提出されている。

(3) 前記公開質問状の提出配布によって顕著となった申請人らの行動につき、昭和四七年三月一九日、被申請人教団責任役員会(理事会)において、懲戒に該当するおそれがあるので、審定委員会を設けるべき旨の議決がなされ、同日代表役員(総長)によって委員の任命がなされた。

審定委員会は調査の結果、昭和四七年四月二五日、前記の各事実を認定し、右は前記懲戒規程四条二号、七ないし一一号に該当するので、同規程三条三号により教議員、教会長の職を免じ、かつ同条四号により教議員、会長、教師、信者の各名簿から除名する旨の審決をした。

同日開かれた理事会において、右審決のとおりの議決がなされ、これにもとづき教団総長は同日申請人の被申請人教会代表役員(教会長)の職を免じた。

なお右審決の過程において申請人の弁明の機会を与えるため、審定委員会は被申請人杉谷を通じて昭和四七年四月二五日午前一〇時に教団に出頭されたい旨の連絡を再三にわたり試みたが、本人行方不明のため連絡がとれない旨の申請人の妻石坂睦子の回答に接し、やむなく被申請人教会代務者代理である責任役員杉谷初野から説明又は意見をきいたのである。

(4) 教団総長の申請人に対する教会長罷免処分通知書は、前同日前記杉谷初野および被申請人杉谷を通じて、石坂隆明殿解任書在中と表書した封筒に入れ、被申請人教会教会長室の申請人の机の上に差置かれた。申請人は行方不明であったので、このような伝達方法をとらざるを得なかったが、被申請人杉谷は同年四月二七日前記石坂睦子に解任書を取りにくるよう申請人に連絡してもらいたい旨の電話をし、さらに同年五月二五日、申請人の自宅において右睦子に解任書を手渡した。

(二) 第二次的主張

申請人に対する解任処分は、昭和四四年一二月三一日制定された審定委員会規程四条三号にもとづくものとして有効である。

被申請人教団の旧教団規則(昭和四二年一〇月一三日から四五年一月二三日まで効力を有した)六〇条には、教会長の免職に関する規定があった。すなわち、「教会長が左の各号の一に該当するときは、教主は代表役員および人事局長の意見をきき、その職を免ずる。(一)この教団の教義をことさらに歪曲して布教したとき、(二)教主の命、又はこの教団の目的に反すると認められる行為をしたとき、(三)この教団の体面を汚すと認められる行為をしたとき、(四)その他教会長として不適当と認められる行為をしたとき」と定められていた。

ところが昭和四四年一二月三〇日の教団理事会および同月三一日の教団総会において、右条文は廃止された。その理由は、新たに審定委員会規程が制定されたので、教会長免職の規定をことさら規則の明文に掲げることは妥当でないということであり、この点については同規程四条三号を適用することになり、前記解任処分は同条項にもとづいてなされた。

(三) 第三次的主張

かりに以上の主張に理由がないとしても、包括法人たる教団、被包括法人たる教会の各規則、教規、諸規程などから判断して、総長(管長)と教会長(教会の代表役員)との法律関係は、民法上の委任に類する契約関係であると解されるから、本件解任処分は民法六五一条一項の準用により、委任に類似する契約の解除として有効である。

被申請人教会の規則九条には「会長及び理事の任期は各々三年とする」との規定があるが、任期中の解任を特に排除した規定はない。一般には任期の定め自体がその期間中の解任告知権放棄の趣旨を含むものとは解しがたい。従って本件の場合代表役員(教会長)の解任が任期中に行なわれたとしても、その効力を妨げられないものと解すべきである。

(四) 第四次的主張

本件解任処分は条理にもとづき有効である。

被申請人教団は従前から条理にもとづき教会長等を解任した例がある。

4(一)  被申請人教団の教規二三条には、「教会長又はその代務者は、教師のうちから、当該教会の規則に定める手続又は当該教会の責任役員会の議決を経て申請したものを、総長が理事会の議決を経て任命する」とあり、被申請人教会の教会規則八条には、「会長は会員代表が推挙したものを世界救世教の管長が任命する」とある。

(二)  申請人の解任に伴い、被申請人教会の会員代表杉原正三、同梶谷吉之助、同杉谷武彦は、昭和四七年四月二五日、被申請人杉谷を代表役員(会長)に推挙し、被申請人教団の総長(管長)は教団理事会の議決を経て同日被申請人杉谷を被申請人教会の代表役員(教会長)に任命した。

5  本件仮処分の申請についてはその必要性がない。すなわち、被申請人教団、同教会、同杉谷はいずれも吸収合併を白紙に戻し本裁判が終了するまで吸収合併に着手しないことを声明しており、合併手続を強行するおそれはないのであるから、本件仮処分を申請する必要性は全く存しない。

三、被申請人らの主張に対する申請人の反論と主張

1  被申請人教団による申請人に対する解任処分は、正当な手続によらず、かつ解任の根拠も理由もないものであるから、無効である。

(一) 被申請人教団が申請人を解任する根拠規定がない。

(1) 被申請人らは第一次的に被申請人教団の懲戒規程にもとづき申請人の役職を解任したと主張するが右懲戒規程は無効である。けだし同規程一条には、規則六六条により懲戒規程を定め、この規程により実施すると定めているが、教団規則六六条は、この規則を施行するための細則は、責任役員会および教議会の議決を経て教規または規程で別に定めると規定しているので、同条によって定めうる事項は規則を施行するための細則に限定せられていることは同条の規定自体から明らかである。そうすると規則に定められていない事項について、責任役員会および教議会が前記六六条にもとづいて教規または規程を定めることは同条の認めないところであり、現行規則には懲戒に関する事項はなんら規定されておらず、しかも右懲戒規程は根拠なくして定められたものであるから無効である。

なお右懲戒規程は昭和四七年三月二五日制定されたものであり、その施行日時は明らかにされていないが、制定と同時に施行されたとしても、被申請人が申請人の解任理由として主張する事実は、いずれも右規程施行前の事実である。したがってかりに右規程が有効であるとしても、これをその施行前の事実に遡って適用するのは、法理を無視するもので、不当も甚しい。

(2) 被申請人らは第二次的に申請人に対する解任処分は昭和四四年一二月三一日に制定された審定委員会規程四条三号にもとづくものであると主張する。審定委員会規程四条三号によって審定委員会が懲戒に関する審理、審決の権限を有するとしても、前述のように懲戒規程自体が無効な現行教団規則の下においてはこれが適用すべき実体的規定が存在しないのであるから、審定委員会が懲戒に関して審理、審決を行なえるはずがなく、右審定委員会規程にもとづく解任は無効である。

(3) 被申請人らは第三次的に教団総長と教会長との関係は民法の委任類似の契約であるから民法六五一条一項の準用によって右契約を解除したと主張する。しかし、教団と教会とに別個の宗教法人であるから、たとえ包括、被包括の関係にあっても、それによって教団と教会の代表役員との間に、民法上の委任に類似する関係を生ずるものではない。したがって民法六五一条一項の準用が可能であるという被申請人らの主張は誤りである。

なお被申請人は、教団規則及び教会規則に、教会長は会員代表の推挙により、教団の総長が任命する旨の規定があるところから、総長と教会長との法律関係は委任に類似する契約であるとしているのではないかと思われる。しかしながら、ここにいう「任命」とは、決定権を含むものではなく、単に確任するとか証明するとかいった程度の形式的行為を意味するものと解すべきである。

一歩を譲り、かりにそうでないとしても、教団総長に教会長解任の権限を認めることは、教団が教会を制約し、教会は教団によって制約される事項であるから、宗教法人法一二条一二号により、当然教団および教会規則にこれを定めなければならないのである。しかるに双方の規則には、かかる規定は設けられていないのであるから、教団総長に教会長任命権ありとしても、そのことから直ちに解任権もあると即断することは誤りといわなければならない。

(4) 被申請人らは第四次的に申請人を条理にもとづき解任したものであり、従来も条理によって教会長を解任した例があると主張する。

しかし、被申請人らの主張する解任の例は、いずれも昭和二七年制定の教団規則が施行されていた当時の解任であって、同規則二八条二項には教会長罷免に関する明文があり、同条にもとづく解任であって条理によるものではない。しかも、右解任の事例はすべて教会長解任前にその所属する各教会は被申請人教団との被包括関係をすでに廃止していたから、被申請人教団はもはやこれらの教会長を任免する権限を喪失していたのに解任したものであって当該解任はすべて無効なものというべきである。

(二) 申請人に対する解任処分はその手続においても不適法であるから手続上無効である。

(1) 審定委員会規程八条では、委員会は当事者又は当該事案に関係ある者の出席を求め、その説明又は意見を述べる機会を与えなければならないと規定しているにもかかわらず、申請人は審定委員会に出席したこともなければ、また審定委員会から出席を求める旨の通知を受けたこともない。

(2) 懲戒処分は法律行為であるから、申請人に対しその処分内容および処分理由を通告することがその効力発生要件であるところ、被申請人教団は申請人に対して適式な通告をしておらず、したがっていまだ申請人に対する解任の効力は発生していない。

(三) 申請人に対する解任処分は理由がない。

(1) 申請人が行方不明で代表役員(教会長)の職務を懈怠したとの点について。

申請人は昭和四七年三月一二日ごろから被申請人教団や同教会に出勤しなかったが、妻や信頼できる教会関係者には常時その居場所を知らせており、いつでも連絡がとれる状態にあった。被申請人教団および同教会に申請人の居場所を知らせなかったのは、被申請人教団が昭和四七年三月一一日ごろ山口、西垣両教団理事を松江市に派遣するのみならず、同月一五日ごろから中国地区青年委員長を隊長とする青年行動隊員多数を被申請人教会に入り込ませて教会を占拠し、電話器を押えて録音装置を施したり、玄関に受付係を配置して外出者にはその行先、所要時間を、訪問者にはその氏名、用件をそれぞれ必ず確認し、さらに教会専従員の外出を禁止し、申請人の私宅の動静を監視したり、さらに教団外事対策委員長松本明重が電話で「草の根を分けても、首に繩をつけても石坂を連れ出せ」と厳命するなどの不穏な行動に出たためである。かかる不穏な情勢の下では、申請人は被申請人教団側によって拉致される危険があるため、やむをえず被申請人教会に出勤しなかったのであって、その責任は申請人にはなくもっぱら被申請人らにある。

(2) 被申請人らが教団等に対する申請人らの事実無根の非難として例示する各事項はすべて事実にもとづく批判であって虚偽や誇張はない、またこれらの事項は被申請人教団や日民同そのものを批判したり、非難しているのではなく、教団執行部の川合尚行、松本明重による異常な教団運営と、吸収合併手続の不当なる点を指摘して、その反省と善処方を求めたものであり、これは国民が時の政府の失政を指摘、攻撃するのと軌を一にするものであって、言論自由の原則上当然容認される範囲内のものである。

(3) 嘆願書の作成提出についての事実関係は次のとおりである。

申請人ほか一七名が東京都千代田区大手町サンケイホールに集まり、すでに内容の部分が印刷されていた嘆願書の配布をうけ、申請人においてその内容を朗読し、さらにその趣旨ならびに提出先または送付先について詳細説明した後、全員これを諒承し欣然として文部大臣宛の正本に署名捺印し、その他に送付するものについては、署名者の氏名を印刷したうえ、そのころ文部大臣その他へ送付したのであって、断じてほしいままに被申請人ら主張の一二名の名義を冒用して作成したものではない。

(4) 辞任願書、議事録等を偽造したとの点について。

被申請人らの指摘する各文書は申請人が偽造したものではない。

被申請人杉谷の実弟江角巌が人妻と不倫な関係をもったことや、同被申請人が支部長である出雲支部内部でも男女問題について不祥事が発覚したことにより、同支部関係者から同被申請人の支部長宛退陣要求の声が起っていたところ、同被申請人の糖尿病が悪化して教会長代務者の職に耐えられなくなったため、同被申請人は昭和四七年一月一五日申請人宛に自発的に代務者辞任届を提出した。また当時被申請人教会の会員代表であった杉原正三は出雲支部の布教担当者であったため、前記不祥事について責任を感じ、同月一八日自発的に会員代表辞任届を申請人宛に提出した。

そこで被申請人教会は、同年二月二〇日責任役員ならびに会員代表を招集し、右両名の辞任届を受理するとともに後任者の選任手続をとった。なお右会議には杉谷初野の代理として同女の息子杉谷武彦が出席していた。

右両名の辞任は以上の経過により、教団の書式にしたがって、各必要文書を作成して提出したものであって、申請人らが偽造提出したものではない。

(5) 幽霊会員の件について

会員の中には、いったん入信しても信仰に迷いを生じたり、また会費を滞納する者もいるが、これを直ちに脱会者として会員名簿からはずすことは、教主の御要望および被申請人教団の方針に反するのみならず救いの道にもとることになるので、当該信者の信仰復帰を期待し、会員として継続報告したものにすぎず、特段の他意は存しない。

(6) 教団幹部会の議事内容をかくしたり、「栄光」の記事を歪曲したとの点について

申請人は教団幹部会の内容をそのまま教会幹部および信者へ伝達しており、これを手もとで止めたことや、また「栄光」の記事を歪曲して説明したことはない。

かりに多少批判的な伝え方や説明をしたとしても、それは被申請人教団の現状を憂うる心情から出たものであって、教会長として当然あるべき態度である。

(7) 申請人が暴力行為等を働いたという被申請人らの主張は否認する。

(8) 申請人が徳行を欠き、信者らの帰依がないとの点について。

申請人は二〇数年間、被申請人教会長の地位にあって、真に教会の指導発展に努めてきたのであり、これが突如としてその徳行を欠き指導統轄に限界が生じて教会長の能力を失うはずがない。

(9) 申請人の解任願出書等の件について。

被申請人ら主張の願出書は、被申請人教団が教団理事を被申請人教会へ派遣し、教会役員に対して「石坂につけば教会が潰れ、布教活動や聖地への参拝ができなくなる。教団につけば支部の建物ぐらいは建設してやる」などと申しむけて、威迫または利害誘導を加え、さらに信者に対しても「石坂に味方する者は孫子の代まで救われない」「石坂に協力すると綱がついてかごむ所へかごまなければならない。信者を除名される」などと告げて脅迫し、むりやりに提出させたもので、自由意思にもとづき作られた書面ではない。

2  申請人に対する解任処分は、宗教法人法七八条に違反するので無効である。

(一) 昭和四四年三月、当時被申請人教団の管長の職にあった川合尚行は、教団の被包括法人である全国七十余の教会を統合して教区制を布こうと企てたが、教会側との話し合いがなく、教団の一方的な意思によって進められたところから、全国教会長の反撥にあい、川合はその職を辞し、教区制問題は立消えとなった。

(二) 川合はその後教団の要職を経て総長に就任したが、その間「教区制をとる場合には教会側と十分話し合って、納得の行く民主的なルールに従って推進することを誓う」旨言い続けていた。

しかるに教団は昭和四六年九月開催の第五回幹部会において、「総意にもとづいて教区制をお願いする」旨の決議をせざるを得ない状態に教会側を追いこみ、ついで同年一〇月五日には早くも教区制実施宣言をなすに至った。

そして昭和四七年一月、教団はこれまで「教区制実施」と唱えていたのを「教団一元化」という言葉に改め、被包括の七十余の教会を教団に吸収合併しようとするに至った。

(三) 吸収合併なるものは、合併される側の教会を解散し、その施設、財産、役員、信者があげて教団に引継がれるのであるから、教会にとっては事重大である。したがって合併に当っては、合併後教会役員がいかなる地位につき、いかなる待遇を受けるか、信者がいかに処遇されるか、施設その他の財産はいかに取扱われるかなどの合併条件について、あらかじめ十分話し合って、合併契約案ならびに合併に伴い変更すべき教団規則の原案が作られて後、はじめて法的手続をとるのが当然である。

しかるに教団は、合併条件について何ら具体的な話し合いをしようとしないで、「川合総長の人間尊重の精神を信頼せよ。教会財産の帰属や人事上の処遇などを気にするようでは信仰が足りない」とか、「未完成こそ信仰の源泉」とか言って、教会側を愚弄し、教団の一方的な方針によって合併を強行しようとした。

(四) かくて昭和四七年三月九日に至り、教団は全国教会長、責任役員、教会事務担当者を本部に緊急招集し、その席上合併契約案を示して合併手続及びその予定期日を説明しただけで、教団自ら作成した合併同意書及び合併決議書の用紙を配布し、同月一八日までにこれらに署名捺印して教団本部に提出せよと要求した。

その合併契約案なるものは、まことに疎漏なものであって、これでは合併に関し白紙委任状を渡すのも同然であり、申請人ら多数の教会長は、かかる教団の一方的、強圧的な吸収合併推進に対し、一層深い疑惑と不安を抱き、これに反対する決意を固めた。

(五) 宗教法人法三四条一項は、宗教法人が合併しようとするときは、信者その他の利害関係人に対して合併契約の案の要旨を示して、その旨を公告しなければならないと定めている。また同法三五条一項は、合併後存続しようとする宗教法人は、規則で定めるところにより、規則変更のための手続をしなければならない旨定めている。

合併契約で決められる合併の条件として重要なものは右の合併後の規則の内容であり、ことに本件のごとき吸収合併に当っては、当然教団規則が大きく変更されなければならないのであるから、その変更の内容を合併契約の案として公告し、これを信者その他の利害関係人に知らせるのが、法の要求するところである。

しかるに教団が示した前記合併契約案は、合併後の規則変更の内容について全くふれず、ただ合併によって教会の信者及び財産が教団に帰属すると言っているだけである。これでは教団に白紙委任状を渡すのと何ら異なるところがなく、右のような教団の合併方式は、明らかに宗教法人法三四条一項に違反するものである。

(六) 申請人が吸収合併に反対せざるを得ない今一つの理由は、教団現執行部の異常な教団運営にある。

昭和四五年二月、川合総長の要請により、右翼団体とみられている日民同の中央執行委員長松本明重が、教団の外事対策委員長に就任した。その後教団と日民同との間には密接不離の関係が生じ、川合総長自ら「教団と日民同は表裏一体である」と公言するほどである。そして教団の財産は日民同やその関係者に濫用され、また教団の事業が日民同の宣伝活動に利用されるなど、世界救世教の伝統と栄光が破壊されつつある。

申請人ら多数の教会長は、この現状を憂え、現執行部のもとで吸収合併が行なわれるときは、合併された教会が日民同の好餌とされるであろうことをおそれた。そこで申請人らは、現執行部の姿勢を正し、然る後教会側の納得する手続によって一元化を図るべきであると判断したのである。

(七) 教団の現執行部は、これまで内部の言論をことごとく圧迫してきた。もっともな意見であっても、それが川合や松本の意思に少しでもそわないときは、徹底的にその発言を封じるばかりでなく、公衆の面前で詑びを入れさせるという専制的な態度をとってきた。

そこで志を同じくする申請人外一七名は、公開質問状の形で不審な点をただし、執行部の回答を求めるとともに、吸収合併に反対する事情を監督官庁に訴える外はないと判断した。そして昭和四七年三月一六日、東京都千代田区大手町サンケイホールにおいて、「世界救世教の現状並びに被包括教会の吸収合併に関する公開質問状の件」(被申請人ら主張の公開質問状)および「世界救世教の被包括教会の吸収合併に関する嘆願書」(被申請人ら主張の嘆願書)に署名捺印して、それぞれ川合総長及び文部大臣に提出し、その写を関係方面へ送付した。

(八) この事実を知った教団は、署名者篠原正作、大槻一雄ら一二名の教会長を責め、各人から右文書に署名した行為を詑びる旨の詑び状および誓約書を徴し、これら一二名を合併反対運動から離脱させた。

残る申請人外五名の教会長または代務者は、教団正常化運動を進めるため都内に滞在していたところ、教団はこれらの者の属する教会へ教団理事数名を派遣し、教会幹部に対し「教会長らにつくと教会がつぶれるぞ。資格を取り上げるぞ」などと威迫したうえ、詑び状、誓約書および教会長罷免の嘆願書などを提出させ、また被申請人教会を含む四教会(隆光、光祥、五三および大栄の各教会)に対しては、多数の青年行動隊員を派遣して教会を占拠し、出入の自由、電話による通話の自由を制約するなどの不法行動に出た。

(九) 申請人外五名は、同年三月二三日、公開質問状に対する川合総長の回答を求めるため、信者らとともに教団本部へおもむいたところ、総長は公開質問状に答えようとせず、空しく時を過ごすうち、突然日民同関係者が現れて申請人らを取囲み、大声で罵り、さらに退去しようとした申請人らを出入口に錠をかけて監禁しようとする行動に出たが、申請人らは警察官の救援によってようやくその場をのがれることができた。

(十) このような教団による無法な圧迫の末になされた申請人の解任処分が、その実質において申請人らの吸収合併反対運動を弾圧し、教団側に加担する者を新代表役員に任命して、合併を強行しようとする意図に出たものであることは明らかである。

しかるところ宗教法人法七八条は、「被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由として」被包括法人の役員らに対し解任その他の不利益処分を加えることを禁止し、これに違反する行為を無効としている。

被包括関係の維持を目的とする行為についてすら、このような制限がある。まして包括法人が被包括法人を積極的に吸収合併しようとする本件のような場合には、被包括法人側の自主性が一層尊重されるべきであって、合併阻止を企てた教会の代表役員(教会長)に対しその地位を解任するなどの不利益処分を加えることは、当然許されないところである。したがって本件解任処分は宗教法人法七八条に違反した無効なものと解すべきである。

3  被申請人教団は被申請人杉谷を被申請人教会の代表役員(教会長)に任命しているが、右任命行為は手続上違背しており無効である。

被申請人らは、被申請人杉谷の被申請人教会代表役員(教会長)就任は昭和四七年四月二五日会員代表杉原正三、同梶谷吉之助、同杉谷武彦の三名の推挙によるものであるというが、当時杉原正三、杉谷武彦は被申請人教会の会員代表でなかった。申請人が昭和四五年一月三〇日被申請人教会の代表役員(教会長)に就任した際、錦織規彦を同教会の会員代表に委嘱し、その任期は昭和四八年一月二九日までであったから杉谷武彦が会員代表に就任する余地がなく、また錦織の後任として就任したこともない。さらに、杉原正三は前記1(二)(4)で述べたとおり既に昭和四七年一月一八日に辞任届を提出し、同年二月二〇日には右届が受理されると同時にその後任として大野正三が会員代表に委嘱されていたのである。

そうすると被申請人教会の代表役員(教会長)の推挙は同教会の会長代表である梶谷、錦織および大野の三名によって行なわれるべきところ、錦織および大野の両名は右推挙行為に関与していないので右手続は違法であり、したがって右違法な推挙手続を前提としてなされた総長による被申請人杉谷を被申請人教会の代表役員(教会長)に任命する行為も無効となる。

4  申請人に対する解任処分は解任権の濫用として無効である。

かりに被申請人教団に申請人に対する解任権があるとしても、既に主張した事実関係の下においては申請人に対する解任処分は権利の濫用として無効である。

四、申請人の主張に対する被申請人らの答弁

申請人の権利濫用の主張はすべて争う。

なお申請人は本件解任処分は宗教法人法七八条に違反した無効なものであるというが、本件解任処分には被包括関係廃止に係る不利益処分の禁止などを定めた同条の準用がない。すなわち同条は信教の自由を保障するため、被包括関係を廃止して別宗を信仰しようとする者に対し不利益な処分をすることを禁止したものであって、合併に関する規定ではない。合併はたんに組織の変更にすぎず信仰の自由とは関係しないからである。かりに合併に関しても、これを理由に不利益処分をする場合には形式的に同条が準用されると解しても、申請人は合併そのものには反対していないから、実質的意義において信教の自由が侵される虞れがなくこれと関係がないので、同条の準用がないと解すべきである。

第三疎明関係≪省略≫

理由

一、被申請人教団と被申請人教会とが、包括、被包括の関係にある宗教法人であること、申請人が被申請人教会の代表役員、被申請人教団の責任役員の各地位にそれぞれ選任された者であること、被申請人らは申請人が被申請人教団により右各地位から解任され、被申請人教会の後任代表役員として被申請人杉谷が選任されたと主張し、その旨の代表役員解任および就任の各登記手続がなされていることは、当事者間に争いがない。

二、そこでまず申請人を被申請人教会代表役員の地位から解任した行為の効力の有無について検討する。

宗教法人法一二条一項五号、一二号によれば、宗教法人が代表役員の資格および任免について他の宗教団体を制約し、又は他の宗教団体によって制約される事項を定めた場合には、これをその宗教法人の規則に定め、所轄庁の認証を受けなければならないのであって、本件の場合被申請人教団がその主張する如く教団の積極的意思決定にもとづいて被申請人教会代表役員たる申請人を有効に解任し得るためには、教団、教会の双方の規則に被申請人教団の解任権を認める趣旨の規定がなければならない筋合である。

しかるところ≪証拠省略≫によれば、被申請人教会の規則二章一節には、六条「この法人には、三人の責任役員を置き、そのうち一人を代表役員とする」、七条「代表役員を会長といい、その他の責任役員を理事という」、八条「会長は、会員代表が推挙した者を、世界救世教の管長が任命する」との各規定があるけれども、代表役員の職を免ずるについて被申請人教団が何らかの権限を有することを直接に定めた規定はなく、ただ同規則三五条に「世界救世教の規則中、この法人に関係がある事項に関する規定は、この法人についても、その効力を有する」との定めがあることが認められる。

一方≪証拠省略≫によれば、被申請人教団の規則四七条には「教団が包括する宗教団体は教会とする」との定めがあり、四八条はこれを受けて「代表役員は教会長をもって充てる」と定めているが、教会代表役員の免職権を教団が有することを直接に定めた規定はなく、ただ六六条に「この規則を施行するための細則は、責任役員会及び教議会の議決を経て、教規または規程で別に定める」旨の規定があることが認められる。

被申請人らは右教団規則六六条にもとづいて制定された被申請人教団の懲戒規程および審定委員会規程が前記教会規則三五条の定めにより被申請人教会に対しても当然に拘束力を持つ旨主張している。そして≪証拠省略≫によれば、被申請人教団の懲戒規程には、理事、教議員、教会長に対する懲戒処分として、被告、停職の外、罷免または除籍の処分をすることができる旨の定めがあることが認められる。右規定が教会代表役員に対する罷免権を定めたものかどうかについて考えてみると、前記のように教団規則四八条が「代表役員は教会長をもって充てる」と定めていることからすれば、教団規則においては、教会長と教会代表役員とは一応別個の地位として観念されているようにも見えるが、≪証拠省略≫によれば、昭和四五年以前の旧教団規則では、その五七条で「教会の代表役員を教会長という」と定めていたことが認められるし、また前記のように教会規則は「代表役員を会長という」と定め、本件弁論の全趣旨によれば、被申請人教会ではこれを教会長と通称していることが認められ、その外特に教会長と教会代表役員とが観念的に区別されている例は、本件全証拠中にも見当らないので、結局二者は同義に用いられているものと解する外はない。したがって右懲戒規程は教会代表役員を懲戒処分によって罷免し得ることを定めたものと解される。そして被申請人ら主張の如く、前記教会規則三五条により、教団規則中被申請人教会に関係がある事項に関する一切の規定が、規則にもとづく規程等の下位規範をも含めてすべて被申請人教会を有効に拘束すると考えることができるとすれば、右懲戒規程にもとづいて被申請人教会の代表役員を罷免できることになる。

しかし宗教法人法が特に包括、被包括関係に立つ双方の宗教法人に対して、互いに対応する規則を設けることを有効要件として要求した被包括法人の代表役員等の資格、任免に関する包括法人の権限が、前記教会規則三五条の如き一般白紙委任条項によって根拠づけられるものとし、しかもこれによって被申請人ら主張の如く教団規則の下位規範である規程等の細則に至るまで被包括法人に対し拘束力をおよぼすものとするならば、包括法人が一方的に行なう規則の変更によってのみならず、規程等の改廃によってすら、被包括法人の規則の内容が自動的にこれに従って変動することとなり、宗教法人法の前記規定の趣旨をいちじるしく没却する結果になることは明らかであるから、被申請人ら主張のような見解は採用できず、教団規則による教会代表役員の資格や任免についての規定が被包括法人たる教会に対して効力を及ぼすためには、これと同趣旨の具体的規定が教会規則中にもなければならないものと解するのが相当である。

本件の場合、前記のように教会規則中には教会代表役員の罷免解任に関する被申請人教団の直接の権限を定めた規定はない。また前記の如く教会規則に「会長は会員代表が推挙したものを世界救世教の管長が任命する」(≪証拠省略≫によれば、被申請人教団の代表役員は、昭和四五年の教団規則改正以前には管長と称され、その後現在に至るまで総長と称されている)とあるのは、≪証拠省略≫によって認められる被申請人教団の教規二三条の「教会長又はその代務者は、教師のうちから当該教会の規則に定める手続又は当該教会の責任役員会の議決を経て申請した者を、総長が理事会の議決を経て任命する」という規定に対応するものであり、両者を対照して考えれば、ここにいう任命行為は単なる認証的行為を意味するものと考えられ、仮りに何らかの決定権を伴う行為であるとしても、それは任命の可否についての意思決定を意味し得るにすぎず、罷免解任についての権限までを意味するものとは到底考えられないところである。

三、以上検討したところによれば、申請人が被申請人教団によって被申請人教会の代表役員の地位から解任されたという被申請人らの主張は、その趣旨を被申請人教団の積極的な支配権限にもとづき解任されたという意味に解する限り、すべて理由がないものといわなければならない。

すなわち被申請人教団の懲戒規程や審定委員会規程は、その教団内部の自治規範としての効力の有無について判断するまでもなく、被包括法人である被申請人教会の教会規則が教団規則に対応する相互規定としての要件を充していない以上、その代表役員を解任する根拠とはなり得ない。また被申請人らは予備的に民法六五一条一項の準用を主張するけれども、民法の委任の規定は被申請人教会とその代表役員としての申請人との関係についてこそ準用されるべきではあっても、被申請人教会とは別個の法人である被申請人教団と申請人との間に同様な関係を認めることはできない(被申請人教団による教会代表役員の任命行為が委任の実質を持たないことは前記のとおりである)から、右予備的主張はその前提を欠き、採用することができない。被申請人らはさいごに条理にもとづいて解任したものであるというが、右主張も被申請人教団が被申請人教会の代表役員を積極的に解任する権限を有することを前提とするものである限り理由がないことは同じである。被申請人ら主張の如く被申請人教団がこれまでに被申請人教会以外の教会の代表役員を解任した例があるとしても、問題は被申請人教会の教会規則がそのような解任を認めているか否かにかかわることであり、他の教会についての先例の有無にかかわるものではない。

もっともこのように解するときは、被包括宗教団体がその代表役員等について包括団体が任免権を有し、あるいは包括団体が与えた資格にもとづいて代表役員等の地位が決定される趣旨の規定を設けていない限り、その代表役員等に背任横領等の犯罪行為や包括団体の教義を全く否認するような行為がある場合でも、包括団体はその地位を直接左右し得ないという結論を認めなければならないことになるが、そういう場合には包括団体としては被包括関係を解消することにより、被包括団体自体に制裁を加える手段が残されているのであるから、右のように解しても包括団体に対していちじるしく不利であるとはいえない。

四、以上のとおり被申請人教団が被申請人教会代表役員たる申請人に対して積極的解任権を有するという趣旨の被申請人らの主張はいずれも失当というべきであるが、被申請人らが解任の根拠として主張する事実は、必ずしも右の趣旨にのみ解しなければならないものではない。前記のように教会規則は教会代表役員が世界救世教の管長(以下現行教団規則に従い、総長という)によって任命されると定めているのであるから、右任命行為を認証的性質しか持たないものと解するにせよ、反対に被申請人教会自体がその代表役員を解任するについても、形式的に被申請人教団の認証を求めるのが自然なことであり、被申請人教団が申請人を解任したという被申請人らの主張はそのような趣旨に解する余地を含んでいるからである。もっとも、≪証拠省略≫によれば、教会規則には前記のような代表役員の選任に関する規定と、代表役員を含む責任役員の任期を三年とするとの規定があるだけで、その解任の要件や手続については何ら規定を設けていないことが認められるけれども、本来宗教団体とその役員との関係が委任類似の信頼関係にもとづくものと解すべき以上、任期中の解任の規定がないからといって、それが全く認められないものと解することができないことはいうまでもない。

よって次に右のような事情の有無について認定判断するとともに、被申請人らが申請人に対する懲戒理由として主張する事実は、被申請人教団責任役員解任の理由としても主張されているのであるから、右主張事実ならびにこれに反論する趣旨の申請人主張事実の全般について同時に判断することとする(教団責任役員の任免は教団の内部事項であるから、教団の自治規範が無条件で適用される事柄であることはもちろんである)。

五、≪証拠省略≫を総合すれば、次の各事実が認められる。

被申請人教団は昭和一〇年一月一日岡田茂吉により「大日本観音会」として発足し宗教活動を開始したが、官憲による宗教弾圧が激しくなり自然解散した。戦後昭和二二年八月三〇日宗教法人「日本観音教団」として再建しその認証を受けたが、昭和二五年二月四日には右宗教法人「日本観音教団」を解散し、新たに宗教法人「世界救世教」を設立して現在に至っている。

被申請人教団は、世界救世教発足当時から急激に信者が増加したため各地方に教会をおいて布教活動の拠点とする教会制を採用するようになり、布教開拓に功労のあった布教師が教祖より教会の命名を受け、教会長に任命された。その後昭和二六年に宗教法人法が制定され、宗教法人には税法上その他あらゆる点で特典が認められたことや、信者の増加に伴い教会の内部面の充実を図り宗教活動を活発ならしめる目的で、被申請人教団は教会の法人格の取得を積極的に認め、これと包括関係を結ぶようになり、昭和四七年三月当時には、七三教会が法人格を取得し、被申請人教団に包括される被包括法人の形をとっていた被申請人教会も昭和二九年三月二五日に法人格を取得し、設立の当初から申請人が代表役員として選任され、引続き昭和四七年に至るまでその地位にあった。

しかしながらこのように各地区教会が独立の法人として活動した結果、割拠主義的な傾向が生まれ、教会間の格差の増大、教団への統一的帰属意識の欠如などの欠陥が教団本部の立場から問題とされるようになった。昭和四五年に京都の秀明教会をはじめとする四教会が教団との包括関係を解消して分離する事件が起ってから、全国の教会を教団が吸収合併し、単一の宗教法人としての教団に直属する教区制を布こうという、いわゆる一元化への改革が急務とされ、教団本部によって積極的に推進されはじめた。このような吸収合併への試みは昭和四四年にも地区制の名で実施されようとしたが、各教会長らの反対によって挫折に終ったものであった。しかし川合尚行総長をはじめとする教団首脳部は、このたびはあくまで統一を実現するという強硬な決意で計画の推進にあたり、まず昭和四六年八月教団の議決機関である教議会を構成する教議員(教団役員、全国教会長、地区本部長、本部部課長をもって充てる)に相談役、参与、参与心得ならびに教会長代務者、地区副本部長を加えた教団幹部会において、強固な教団の指導体制をつくるために、教会を奉還し、一元化を実現するという趣旨の決議がなされ、同時に教区制推進委員会の設置が決議された。

これより先、昭和四五年二月ごろ、被申請人教団は外部からの批判や攻撃に対処することを目的として外事対策委員会なる機関を設け、委員長に松本明重を選任した。右松本は日本の民族的伝統を尊重し、日本精神を昂場することを目的として掲げている日民同の中央執行委員長の地位にあり、個人的に被申請人教団の信者となっていた者であるが、外事対策委員長に就任して以来、教団が当面していた諸問題の解決に手腕を発揮し、一元化の推進についても総長とならんで中心的存在となるに至った。同時に被申請人教団と日民同との間にも密接な提携関係が生じ、外事対策委員会が教団に関係する訴訟その他の事件の調査に要したという数百万円にのぼる費用を日民同が立替え、これを返還するためとして被申請人教団から日民同に再三入金が行なわれたり、かねて日民同顧問の肩書を有していた被申請人教団の川合総長の総長就任祝賀会が日民同の主催で盛大に催され、教団関係者がこれに招待されたり、日民同主催の「日本の宴」と題する伝統芸能の公演を目的とする行事に被申請人教団が協賛団体となり、五百万円分の入場券を関西地区の教会に割当てて消化するというように、経理面においても密接なつながりができるようになった。また昭和四五年八月以降において、日民同の役員の一人である元持悟が社長となっている新京開発株式会社に対し、被申請人教団より利殖のためという名目で三億二千万円余にのぼる融資が行なわれた事実があった。

さらに昭和四六年には八月と一二月の二回にわたって被申請人教団の幹部合計百五十数人が東南アジア研修視察団の名目で、松本明重を団長、日民同中央執行副委員長石津経秀を副団長として、韓国、沖繩、香港、台湾を歴訪し、その際教団幹部一同が各自日民同の常任顧問や中央執行委員の肩書をもって行動しあたかも日民同と被申請人教団が一体の関係にあるような観を呈した。この視察旅行に関連しても、日民同が訪問先の国の在日外交官に対する接待費等を立替え支出したとして被申請人教団に請求した金が外事対策委員会の費用として支払われていた。旅行中には教団首脳部らが台湾政府の特別許可を得て軍用機で金門島を訪れ、防衛陣地を視察するなど、政治色が濃いとみられる行動が多く、積極的に反共姿勢を打出す態度が示された。

右のような情勢の下で昭和四六年九月に第一回教区制推進委員会および第五回教団幹部会が開かれ、吸収合併の法的手続、教会財産、教会長を初めとする資格者専従者に対する処遇、老齢教師、信者の帰属、教団組織体制等々、教区制の実施にあたっての具体的諸問題を検討し、その結果、かかる複雑な諸問題は短時日では結論を見出し得ないが、各教会が信仰的にも運営的にも教会制度の限界を悟った現在、全教会長が宗教法人として運営してきた教会を教団に奉還し、無条件に教団に吸収合併することをまず実施すべきであり、その後においてお互いが教団幹部としての共通的見地より前記の諸問題に総意をもって取り組み、充分に時間をかけて結論を見出し、これを実施すべきであるということになった。右会議の結果は幹部会の意思として同年九月二一日の臨時教議会に提出され、同教議会において吸収合併を前提とする教区制実施が満場一致で議決された。その後教区制推進委員会は吸収合併の法的手続を検討し、昭和四七年一月二四日には右委員会は一元化推進本部と改称された。同年三月四日の理事会においても吸収合併の手続、手順および説明会の開催を決議し、右決議は同日の一元化推進本部常任推進委員会において再度確認され、同月八日の合同役員会(理事、相談役、参与全員の会合)でその賛同を得た。そこで被申請人教団は同月九日全国の教会長、教会の責任役員、事務担当者を被申請人教団の熱海本部に集合して、吸収合併に伴う事務説明会を開催し、同説明会で被申請人教団は全国の教会長等に対し、教会の吸収合併に関する手続と、合併契約案を提示して同月一八日本部必着でその同意書を送付するよう説明した。しかしそこで示された合併契約案は、「1、各教会に所属する教師、信者のすべては、教団の教師、信者として移籍する。2、各教会の所有する境内建物および境内地は教団の所有とし、その定めるところに従って引続き使用する。3、右の外、各教会の一切の権利義務は教団によって承継される。4、合併につき必要なその他の事項は、この契約締結の日から合併成立の日までの間に、教団教会双方の代表役員が協議して定める」というだけのものであった。

六、≪証拠省略≫によれば、次の各事実が認められる。

申請人は被申請人教団が右のいわゆる一元化の推進に当って、吸収合併の対象となる教会側の財産の処理や役員の処遇などについて具体的な案を示すことなく、吸収合併という結論だけを一方的かつ性急に押しつけてきたと考え、強い不満と疑惑を抱いていた。特に教団運営に関する総長川合尚行や外事対策委員長松本明重の言動については、申請人が圧迫を感じる次のような点があった。

昭和四六年一月当時、被申請人教団が京都の立命館大学の所有で現在京都救世会館となっている建物(通称恒心館)を買入れるについて、その可否を決する教団理事会の席上で、川合総長が出席理事に対し、理事会がこの問題の決定に手間取っていることをなじり、同総長自身が松本外事対策委員長に呼出され、理事全員に対する職務執行停止仮処分申請の書類が整っているが申請を出してもよいかと詰寄られた旨発言して、結局買入を可とする決定がなされた。その翌月熱海の旅館で、総長以下、申請人を含む教団役員らが宴席を共にしたとき、松本は川合に向って「川合先生、随分今度の事件では苦労したなあ。先生に反対したり批判したりする者があれば私に言いなさい。そんな奴は叩き殺してやるから」と放言した。

さらに同年六月に教団幹部に対し「改革の流れ」というテーマを掲げた研修会が行なわれた後の感想発表に際して、地方代表の一人が「今回の研修を受けて、わかればわかるほど不安が残る」との発言をしたところ、松本が壇上にかけのぼって、「わかればわかるほど不安が残るとはどういうことだ。だったらわかるまで何日でも聖地にいなさい。わかるようにしてやる」と詰寄り、翌日右発言者が教団全幹部の前で軽卒な発言をしたことを詫びた事実があった。

同年八月の教団幹部会で長生教会教会長小田部正が関東地区の意見として、「川合総長と松本外事対策委員長は各地で新体制の説明をしながら互いにほめ合っているが、そういうことはほめ合いを目的としてきたようでおかしいし、宗教者としてさびしい。また川合は神聖とされている教主の批判をしているが、そうしなくてもよいではないか」という趣旨の発言をした。その後で教団理事数名から小田部に対し、「川合総長が激怒しているので、皆の前で詫びた方がよい」という話があり、結局小田部は詑び状を書いて幹部一同に対しこれを発表した。

さかのぼって昭和四五年三月には、申請人が教会長の一人である高山正昭が目尻を黒くしているのを見て何かあったのかとたずねたところ、実は、祇園の寿司屋で松本明重に態度が悪いといわれて殴り倒され、その際机の角に目尻をぶつけたという話をきいたこともあった(≪証拠判断省略≫)。

このような一連の事実と前記の日民同と被申請人教団との提携関係の深まり、これに関連するとみられる金の動きを知った申請人は、被申請人教団が政治結社的性質を帯びた日民同によって乗取られてしまうのではないかと憂慮し、現状で教会の吸収合併を進めることは、川合、松本の独裁体制を強化し、合併でふくれた教団財産を日民同の利益のために濫用される結果になると考え、同様の考えを持つ各地の教会長らと対策を協議し、川合総長宛の公開質問状で申請人らの見解を教団の内外に訴えることを図っていたが、前記のように昭和四七年三月九日の説明会で、具体性のない合併契約案が教団側から示され、しかも同月一八日までに吸収合併に対する同意書を提出せよと要求されるに及んで、もはや尋常の手段では申請人らの憂慮する事態を阻止することはできないと考え、かねて博愛教会教会長大久保智正、長生教会教会長小田部正らとはかって文案を準備していた公開質問状を有志教会長の連名で川合総長に送るとともに、文部大臣に対しても吸収合併の方法の不当性と教団と日民同との関係の実状を訴え、適正な処置を望む趣旨の嘆願書を提出し、同時にこれらの文書の写を被申請人教団の各教会長、支部長ら(嘆願書はこの外に文化庁長官、都府県知事にも)に配布することを決意した。

同年三月一一日、申請人は姉の病気見舞に行くと称して被申請人教会をでて、かねての打ち合わせに従い、名古屋市内の旅館で前記有志教会長らと会合して、公開質問状、嘆願書の文案を完成し、その印刷ができあがった同月一六日に東京都千代田区大手町のサンケイホールで同志の会合を開いた。これに参加したのは申請人、前記大久保、小田部以下総勢一八名の教会長またはその代務者らであった。そこで申請人は、すでに内容部分が印刷されていた末尾添付の別紙記載内容の公開質問状および前記趣旨の嘆願書を右教会長らに配付して、その書面の内容を朗読するとともにその趣旨ならびに提出先について説明し、出席者全員がこれを了承して右各書面の末尾に署名した。申請人らは同日、右公開質問状を被申請人教団本部宛に、嘆願書を文部省宛に各提出すると同時に、右各書面の写を堀内勝子他多数の教会長、支部長などに(嘆願書の写は前記諸官庁にも)送付した。

一方被申請人教団は申請人らが吸収合併反対の運動をしていることを察知し、これを押えるため同月一二日に山口、西垣両教団理事を被申請人教会へ、ついで同月一五日には中国地区の青年信徒から成る青年行動隊員約二〇名をそれぞれ派遣して、平本ナヲ監察指導委員らとともに、実力をもって被申請人教会を占拠させた。右隊員らは教会関係の諸帳簿を取り上げ、教会の電話すべてに録音装置を施し、あるいは教会専従者の身辺を厳重に監視して、外出したりまた便所へ行くときでさえ監視を続けた。さらに右隊員らは教会関係者に対し、松本明重外事対策委員長から「草木の根をかき分けても、石坂を探し出し、首に繩をつけてここにつれて来い」という趣旨の命令が出ている旨の広言をし、参拝の信者に対しても、「お前は誰だ。どこから来たか」と一々誰何し、加えて申請人の私宅附近をも巡回して申請人の家族の動静を昼夜監視した。そこで被申請人教会専従者杠美年子および同教会会員代表大野正三は密かに申請人と連絡して、今帰松するのは危険である旨を伝えた。申請人は同月一二日に被申請人教会で幹部会を開いて、自分の意思、行動を説明する予定であったところ右杠および大野の連絡によってこれを断念し、その代り同月一五日に、右杠、大野および妻睦子宛に、申請人は初志貫徹のため健在であり、教会幹部、世話人も安心のうえ圧力に屈することなく健闘されたい趣旨の電報を各別に発信し、その後は一時消息を断った。

以上の認定に反し、前記嘆願書署名者らの大部分は嘆願書を提出することも、その内容も知らず、申請人ら一部の者にだまされて白紙に署名させられこれが後に嘆願書本文の末尾につけられて、連名の体裁をとらされたものであるとの趣旨の≪証拠省略≫の記載は、いずれも信用できない。≪証拠判断省略≫

七、次に≪証拠省略≫を総合すれば、昭和四七年三月二七日付で、当時の被申請人教会代表役員代務者被申請人杉谷、責任役員杉谷初野が杉原正三と連名で願出書を被申請人教団に提出し、申請人が公開質問状や嘆願書を配布して被申請人教団や日民同の名誉、信用を傷つけたこと、被申請人教会で責任役員会議事録等の文書を偽造して行使したこと、信者の数を水増しして教団本部に報告したことを理由として、申請人の代表役員の職を解くよう願出たこと、右願出書において杉原正三は会員代表の肩書を用いていること、さらに同年四月一八日付で右三名の外に責任役員田中孝明、会員代表梶谷吉之助、同杉谷武彦、監事新谷忠義、同田平正雄、外役職者六名の連名で追加願出書が被申請人教団に提出され、その趣旨は前記の各事実の外、申請人が同年三月一一日以降連絡を絶ち、教会での職務を放棄していること、吸収合併に関して被申請人教団から受領した書類を持出し、手続をにぎりつぶしていること、被申請人教会で吸収合併に反対しているのは申請人とこれに従う数人の信者だけであること、幹部、信者らはほとんど申請人に帰依せず、被申請人教団に帰依していることなどの事実をあげて、被申請人教会の幹部一同は申請人を代表役員および責任役員の地位から解任することに意見が一致したので、その旨の決定を願出るというものであること、被申請人教団理事会の指名にもとづいて構成された審定委員会は、同年四月二五日、被申請人教会代表役員代務者である被申請人杉谷の委任状を持参して出頭した教会責任役員杉谷初野から説明および意見として前記追加願出書記載のような事情の陳述をきき、同日付で申請人に対する懲戒処分として、その被申請人教団理事、同教議員、被申請人教会代表役員の職をいずれも免じる旨の審決をし、同日右審決にもとづいて被申請人教団理事会が同旨の議決をし、その旨の辞令が発せられたこと、以上の事実が認められる。

八、そこで以上の事実によって、被申請人教会が同教会代表役員たる申請人を有効に解任したものとみられるか否かについて検討する。

前記のように教会規則には代表役員の解任に関する規定はないが、その選任については会員代表の推挙によることが定められているから、解任についてもまずこれを準用すべきである。≪証拠省略≫によれば、教会規則一九条には「この教会に三人の会員代表を置き、衆望がある会員のうちから、会長が委嘱する」旨の定めがあることが認められる。一般に役員の任期中の解任には、選任以上に厳重な要件を設けるべきであるから、解任については原則として会員代表の少なくとも過半数の同意を要するものと解すべきであるが、ただ右のように会員代表の選定方法が必ずしも客観的なものではなく、その人数も三人にすぎないことを考えると、役員に背任、横領等の重大な非行がある場合、その他これに準ずる程度の重大な理由がある場合に限り、右の要件によらずに解任することができるものと解すべきである。

前記のように申請人に対する解任願には、会員代表として杉原正三、梶谷吉之助、杉谷武彦の三名が名をつらねている。被申請人らは右三名が正当な会員代表であると主張し、このうち梶谷吉之助が会員代表であることには争いがないが、申請人は他の二名は会員代表ではなく、正当な代表は、錦織規彦、大野正三であると主張して争っているので、この点について検討する。

九、≪証拠省略≫を総合すれば次の事実が認められる。

被申請人教会は昭和二九年一月八日教会規則を作成して、同年三月一〇日右規則の認証を受け、同月二五日その設立登記を了し、初代会長には申請人が、初代会員代表には杉原正三、錦織規彦、増原静子の三名が選任された。前記のように教会規則一九条一項には「この教会に三人の会員代表を置き、衆望のある会員のうちから、会長が委嘱する」と規定されており、その任期は同規則一九条二項、九条一項により教会長の任期と同じく三年とされていた。

なお同規則九条三項には「会長及び理事は、辞任又は任期満了後でも、後任者が就任する時まで、なおその職務を行なうものとする」という規定があり、右規定は同規則一九条二項により、会員代表についても準用されていた。そして実際の運用では右任期の規定は余り厳格には守られず、申請人は昭和三四年、同三七年の二回にわたって代表役員に重任した後、同四五年一月三〇日に至ってようやく四度目の任命を受けた。会員代表も右のように申請人が正式に代表役員に重任される都度、前記の三名が申請人から口頭で新たに委嘱される状態が続いていた。ところが昭和四五年四月、申請人は被申請人教団の常任理事に任命され、被申請人教会代表役員の職務執行にさしつかえを生じたので、教会規則一二条の規定により代表役員代務者を置くこととなり、被申請人杉谷が代務者に選任された。その後昭和四六年七月三一日会員代表増原静子が老齢のため辞任したので、その後任の会員代表には梶谷吉之助が教会代表役員代務者である被申請人杉谷から同年八月一〇日委嘱を受けて就任した。しかして昭和四七年一月一八日会員代表杉原正三はその布教担当区域内の出雲支部内部で起きた男女問題の不祥事件等の責任を感じて辞表を申請人宛郵便で提出したので、その後任の会員代表には大野正三が同年二月二〇日、当時被申請人杉谷の後任として教会代表役員代務者に就任することになっていた田中孝明より口頭で委嘱を受けて就任を承諾したが、被申請人教団は申請人がそのころ既に教団常任理事をやめていたので、教会代表役員の代務者を置く必要はないという理由で田中を代務者に任命しなかったため、申請人は改めて教会代表役員の権限により、同年三月五日被申請人教会で開催されたその幹部会の席上で大野に会員代表就任を委嘱し、大野はこれを承諾した。ところが同年三月三一日、梶谷吉之助と杉原正三は、共に会員代表として代表役員代務者としての被申請人杉谷に対し、会員代表錦織規彦が同月一〇日任期満了し、その上被申請人教団に対して弓を引くような行為のある申請人の手先として事実無根の流言を放ったりしているとして、同人を解任するよう上申し、被申請人杉谷は同日付で錦織に対し任期満了を理由として会員代表の任務を解く旨の通知をしたうえ、同年四月一日後任者として杉谷武彦に会員代表就任を委嘱しこれを承諾させた。

≪証拠判断省略≫

右認定によれば会員代表杉原正三は既に辞任し、その後任の会員代表は昭和四七年三月五日申請人から委嘱を受けた大野正三であり、また錦織規彦の会員代表としての任期は昭和四五年一月三〇日から新たに起算され、昭和四八年一月二九日に満了することになるので、昭和四七年三月九日にその任期が満了したことを前提として、杉谷武彦をその後任に選任した行為は無効であり、錦織は未だその地位を失っていないものと解される(後記のように被申請人杉谷自身も既に代表役員代務者を辞任した後に右委嘱をしたものであるから、その点からいっても杉谷武彦の就任は無効である)。

そうすると申請人に対する代表役員解任については、被申請人教会の会員代表中、梶谷吉之助のみが同意し、他の二名の同意はなかったことになる。

一〇、前記のように、代表役員の解任には、原則として会員代表の少なくとも過半数の同意を要すると解すべきであるが、本件の場合には三名の代表中一名の同意しかなく、他の二名である大野正三、錦織規彦が解任に反対していることは、右両名の証言によって明らかである。そこで次に右の要件がなくても、解任を有効と認めるべき特段の事情があるかどうかについて判断する。この点の判断については、まず前記解任願出の理由とされた事実(それはおおむね被申請人教団による懲戒処分の理由として被申請人らが主張しているところと一致する)の有無およびその評価が問題となるので、以下順次判断する。

(一)  申請人が消息を絶ち、教会代表役員の職務を放棄したとの点について。

前記認定事実によれば、申請人は被申請人教団の命を受けた青年行動隊等によって被申請人教会が占拠され、その正常な運営が阻害されたばかりでなく、申請人自身の身辺にも危険が及ぶ事態が予想されたため、やむなく身を隠し、被申請人教会に出勤できなくなったものであって、申請人がそのような危惧を抱いたことには相当の根拠があったと認められるから、この点について申請人の責任を問うことはできない。

(二)  公開質問状等の提出配布およびこれに関連する申請人の言動について。

申請人が別紙記載の内容の公開質問状を川合総長宛に提出し、同時にその写を多数の教会長らに配布したことは前記のとおりであり、右公開質問状中には「(イ)最近における教団の動向をみるに右翼団体たる日本民主同志会中央執行委員長松本明重氏が、教団の外事対策委員長の要職を占め、教団は日本民主同志会の宣伝活動に利用されつつある。」、「(ロ)仄聞するところによると、松本明重氏は教会長某氏や役員某氏に対し、暴力沙汰に及んだとのことであるが、事実とすれば最高幹部としてあるまじき行為である。その真否並びにこれに対する所見如何、また人間尊重の民主主義的な運営を為すといわれているにもかかわらず幹部会における素朴な質問に対しても、松本明重氏は壇上にかけ上り、『解らなければ、解るまで本部にいてもらおう』と叫び、翌日その人達は満座の前で詫びさせられている。前記の暴力事件と併せ考え、このような言論圧迫の現実に対してどうお考えか。」、「(ハ)殊に土地売買に関しては、新京開発株式会社の元持悟氏に格別の便宜を与えたものであるとの風聞が高いがその真相如何。」、「(ニ)然るに恒心館(京都救世会館)はその後数億円の巨費を投じて増改築を行ないながら、現状は毎月多額の赤字を出している。教主様の御意思を無視し、心ある教議員の反対を抑えて、購入並びに改修を実施した責任者は自らその不明の責任をとるべきではないかとの声が多大であるが所見如何。」という各記載がある。

また≪証拠省略≫を総合すれば、申請人は昭和四六年一〇月七日、被申請人教会御神前における教会幹部会(一六名出席)の席上で「川合、松本は教主様をないがしろにしている。この体制のまま教団が進めば教主様は利用されるだけである。教義がゆがめられ、明主様の創業の精神から完全に逸脱しつつある。教主追放、川合教主ができるおそれがある。川合人事は一党独裁であり、人事は自分の取巻きによって占められている。」趣旨の発言を、さらに昭和四七年一月二日、被申請人教会御神前における教会幹部会(一六名出席)の席上でも、「右翼化された救世教、日民同化された救世教、一歩あやまれば日民同のための救世教になりかねない。松本明重は三好の二代目か。」とか、或いは同年一月三〇日、被申請人教会における年頭世話人研修会(約五〇名出席)の席上では、「救世教は世界の名画、色々な色があってこそよい。赤一色、黒一色でもいけない。救世教は日民同のための救世教ではない。」趣旨の、また昭和四六年一一月一六日、被申請人教会御神前において世話人約四〇名に対し、「本日の山陰地区教区制指導研修会はいいかげんにきいておけばよい。」趣旨の各発言をしたことが認められる。

被申請人らは公開質問状のうちの前記記載部分や申請人の発言が名誉棄損や侮辱に該当する旨主張するものと解されるので、その当否について検討する。

まず公開質問状の前記記載事項中、(イ)の点は、日民同が右翼団体であるといい、かつ被申請人教団をその宣伝活動に利用しているというのであって、こういう指摘が日民同および被申請人教団首脳部にとって心外な批判と受取られるであろうことは容易に想像できるけれども、日民同と被申請人教団との関係や特にいわゆる東南アジア視察旅行中の事情について先に認定したところからすれば、右のような指摘は正当であるかどうかは別として、未だ許されるべき批判の自由の枠をこえるものではない。また(ロ)の点は、松本明重に暴行の疑いがあり、言論の圧迫をしているというのであって、その一部において同人の名誉を傷つけるものではあるが、前記第六項において認定した各事実からすれば、暴行の疑いがあるということも全く根拠がないものとはいえず、その余の指摘は表現の当否は別として、一応根拠があるものといえる。もちろん刑法上の名誉棄損は、摘示された事実の有無にかかわらず成立するものであるけれども、松本が被申請人教団の要職にあり、総長にならぶ実力者とみられ、その言動が教団内部に及ぼす影響は多大であること、松本の言動には批判者の立場からすれば強引にすぎるとされても仕方がない点があること、申請人らの意図は主として教団内部における言論の自由を要求しようとするものであり、松本に暴行の事実があると断定しているわけではないことを考慮すれば、右の指摘が名誉棄損に当るとしても、その違法性の程度は微弱であるということができ、その外には格別違法とみられるような記載はない。(ハ)の点は、前記認定事実からすれば、そこに指摘されたような疑惑が生じることは、むしろやむを得ないことであり、(ニ)の点は、その根拠の有無については証拠上定かではないが、いわば政治批判の域を出ないもので、特に個人的な非行を摘示する趣旨のものでないことは、その記載自体から明らかである。

以上の外公開質問状中には、吸収合併に関する教団側の方針を非難し、宗教法人法に違反しているといい、また川合総長の就任祝賀会が日民同の宣伝に利用されたとか、東南アジア研修視察の際、教団幹部全員に本人が知らないのに日民同の役職が肩書としてつけられていたとか、日民同の旗と教団旗とを並べて行進する写真が教団機関紙にしばしば掲載され、信者多数の眉をひそめさせているとか、巨額の金が教団から日民同に流出している模様であるとか、教祖の教えに反して電気治療器が教団施設に設置されたり、薬品にまぎらわしい物が強制割当で販売されたりしており、これも松本の指図によるといわれているとか、教団首脳部および日民同を糾弾する趣旨の記載があるけれども、この程度の批判は、批判された方の当事者がこれを甘受し得ないとするならば、堂々と反論することによって覆し得べき性質のものであり、その根拠の有無や当不当の問題は一応別として、言論による争い以外の方法で抑制したり、制裁を加えるべきものとはいえない。申請人の前記その余の発言が、その表現において多少どぎつい嫌いはあるとしても、格別違法とみられる点はなく、その当否は専ら関係人らの自由な批判によって決すべき性質のものであることは、一層明らかである。

被申請人らはさらに申請人が嘆願書の作成名義の一部を偽造したというが、嘆願書の署名者らがいずれもその内容、目的を承知のうえで署名に加わったと認められることは前記のとおりである。なお右嘆願書の内容にも、あえて違法とみるべき程度の記載はない。

もっとも申請人が被申請人教団の正規の機関である理事会や教議会において発言する方法によらず、文書を配る方法で被申請人教団の既定の方針に反し、首脳部を批判する意見を宣伝し、ことに文部大臣や関係官庁に対して直接教団内部の問題を訴えたことは、その行動に対していわゆる政治的責任を問われるべきことはもとより、被申請人教団の内部秩序の面から統制処分を受けることも当然あり得べきことであるが、そのことと、被申請人教会内部において代表役員たる申請人の以上のような行動に対し、会員代表の意思によらない解任という方法でその責任を問うことが許されるかということとは、自ら異なる問題であり、結論としては、後者の点について、これを否定すべきであるというに尽きるのである。

(三)  申請人が被申請人教会内部の文書を偽造して行使したとの点について。

≪証拠省略≫を総合すれば次の事実が認められる。

昭和四六年一二月二九日、被申請人教会出雲支部の信徒有志から、申請人に対し、当時教会代表役員代務者兼出雲支部長であった被申請人杉谷の実弟江角厳が人妻を伴って出奔し、九州で同棲している事実が明るみに出たこと、被申請人杉谷自身にも同支部専従者某女との関係についてとかくの風評があること、その外にも同支部内でそのころ男女間の不祥事が起きたことなどを理由として、被申請人杉谷の進退について善処を求める旨の申入れがあった。そのため被申請人杉谷は昭和四七年一月一五日、杉谷武彦を介して、教会代表役員代務者の辞任願を、糖尿病により向う一ヶ年静養を要する旨の医師の診断書を添えて、申請人に提出し、さらに同月一八日には、当時出雲支部の代表世話人をしていた杉原正三も、郵便で会員代表の辞任願を提出した。そこで申請人は同月二九日被申請人教会御神前において幹部会を開き右両名の辞任願を受理したうえ、同年二月二〇日被申請人教会において幹部会ならびに会員代表、代表世話人会を開き、被申請人杉谷および杉原正三提出の各辞任願を一同に示し、提出に至った経過および一月二九日の幹部会でこれを受理したことを報告して、会員代表、代表世話人の同意を得た。責任役員杉谷初野は右会合に出席せず代理として同人の実子杉谷武彦が出席していたが右会合終了後の会食中に杉谷初野も来たので申請人が幹部会の内容と決定事項を同人に伝えて、その承諾を得た。申請人は同日、田中孝明と永原君江に当日の議決にもとづき、教団提出用の書類を作成するよう命じたが被申請人教団に提出すべき書類にはその書式が定められていたので、右両名は右書式に従って被申請人杉谷、杉原正三の各辞任願書を作成し、また慣例に従って責任役員会議事録を作成した。これらの書類に押すための各名義人の印鑑は、予め本人の同意のうえで、被申請人教会事務担当者が保管しており、右辞任願、議事録にも、そのようにして用意してあった被申請人杉谷、杉原正三、責任役員杉谷初野の印鑑をそれぞれ押印した。

申請人は三月五日ごろ右各書面を被申請人教団本部に提出し、被申請人杉谷および杉原が申請人に提出した辞任願の各原本は、申請人が被申請人教会内の自室に保管していたが、青年行動隊によって同教会が占拠されたころから、その所在がわからなくなった。

≪証拠判断省略≫

そうすると申請人は被申請人杉谷および杉原正三の有効な辞任願を被申請人教団の書式に従って書き直しを命じたにすぎないから、これをもって文書偽造ということはできない。

また責任役員会も、形式的にはその名目で開催されていないが、二月二〇日に教会幹部や会員代表、代表世話人が集って会合を開き、右会合には責任役員三名のうち、申請人と田中孝明の二名が出席し、他の一名である杉谷初野は欠席したが、代理として同人の実子である杉谷武彦が出席しているのみならず、その当日遅れてでてきた杉谷初野に対し申請人が右会合の内容と決定事項を知らせ、その承諾を得ているのであるから、責任役員会は実質上有効に成立したと認められるのでその内容にそう責任役員会議事録を慣例の書式および方法に従って作成したことが文書偽造に当らないことは明らかである。

(四)  幽霊会員の件について

≪証拠省略≫を総合すれば、申請人は約一〇年前より被申請人教会の支部長や出張所長に対し、会費を納入しなくなった信者であっても、従来どおり会員として報告する旨の指示をしており、右指示に従って支部長、出張所長が会費未納者も継続して会員として報告し、その数は昭和四七年三月二二日現在で約八九八名に達するが、それらの者の会費は被申請人教会が立替えていたことが認められる。

しかして、≪証拠省略≫によれば、申請人の右指示はいったん世界救世教に入信したものは、たとえ信仰に迷いを生じ会費を滞納しても直ちに脱会者とみて会員名簿からはずすことなく信仰に復帰させるよう努力せよとの初代教主岡田茂吉以来の被申請人教団の方針にそってなされたものであり、被申請人教会内でも従来このことが積極的に批判されたことはないことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

したがってこの点の申請人の処置には、批判の余地はあるとしても、その任務にいちじるしく背く行為であるとまではいえない。

(五)  会員多数の意思に反して吸収合併に反対し、これを妨害しているとの点について。

申請人が被申請人教会の会員らに対して、いわゆる教団一元化について批判的な態度を示してきたことは前記のとおりである。

そして≪証拠省略≫には、被申請人教会の会員の大多数が被申請人教団の一元化方針を当初より積極的に支持し、これに反対していたのは申請人外数人の会員だけであったとの趣旨の記載および供述がある。しかしこれらの記載や供述は、≪証拠省略≫に照らすと、にわかに信用できず、かえって右各証拠によれば昭和四七年三月以前の時期には、被申請人教会内で申請人に積極的に反対したり、被申請人教団の一元化方針を積極的に支持し、これに協力しようとする動きはなく、大部分の会員は一元化の問題については傍観者的な立場にとどまっていたこと、申請人の会員間における信望は安定しており、前記のように教会役員代務者である被申請人杉谷らに対して批判的な会員らも、もっぱらこの問題を申請人に訴えて解決しようという態度であり、それ以外には格別被申請人教会内部の対立はなく、右の問題も被申請人杉谷らの辞任によって一応結着がついた段階にあって、正常な教会運営が期待できる状況であったことがうかがわれる。

してみれば申請人の一元化問題についての被申請人教団に対する批判ないし非協力の態度は、会員多数によって積極的に是認され、支持されていたとはいえないにしても、格別会員多数の意思に反したものともいえず、これによって申請人が被申請人教会役員としての義務に反し申請人と会員との間の信頼関係が破壊されたといえないことはもちろんである。

もっとも≪証拠省略≫によれば、本件仮処分申請後の段階で被申請人教会に属する会員の大多数が、本件の争いにつき被申請人教団によって教会代表役員に任命された被申請人杉谷を支持し、申請人を排斥する趣旨の賛同書と題する書面に署名したことが認められるけれども、右署名は本件係争中に集められたものであり、前記のように被申請人教団と申請人が対立し、被申請人教団が被申請人教会に対して相当に強圧的な干渉を加えている事情などを考慮すれば、その署名がどの程度書面の趣旨に対する理解と賛同にもとづいているかについても疑問の余地が少なくないのであるから、これによって申請人に対する解任当時の会員の信頼関係を判断する資料と直ちになし難く、またその解任の正当性を根拠づけるわけには行かない。

(六)  被申請人らは右の外、申請人が被申請人教団幹部会の議事内容を被申請人教会会員らにかくしたり、教団機関紙「栄光」の記事を歪曲したこと、暴力行為に及んだ事実があること、徳行を欠き、会員信徒の帰依がないことなどを主張し、≪証拠省略≫には、申請人が被申請人教会内で暴力をふるったり、粗暴な言動をしたりしたという趣旨の部分があるが、該部分は≪証拠省略≫に照らすと、にわかに信用できない。その他の主張は具体性にも乏しく、これにそうような証拠もない(なお申請人に対し会員の帰依がなかったといえないことは、(五)で検討したとおりである)。

一一、以上みたところによれば、申請人には被申請人教会代表役員としての任務にいちじるしく反し、またはこれをいちじるしく怠ったり、あるいは代表役員としての能力をいちじるしく欠くというに足りる事実は認められない。したがって会員代表の過半数の同意がないのにかかわらず、なお申請人の解任を正当とすべき特段の事由はない。

よって申請人は依然被申請人教会代表役員の地位を失っていないものと解すべく、右地位の保全ならびにこれと両立しない被申請人杉谷の同教会代表役員としての職務の執行を停止することを求める申請人の申立は理由がある。

また≪証拠省略≫を総合すれば、申請人は昭和四六年一〇月より被申請人教会より同教会教会長として一ヶ月金一五万円の給与を毎月末日に支払を受けていたが、前記解任にともない右給与の支払を昭和四七年四月一日以降受けていないので経済的に困窮した状態にあることが認められるので、被申請人教会に対し、前同日以降本案判決確定まで、前記の割合による給与の仮払を求める申請人の申立も相当として容認すべきである。

一二、申請人は次に被申請人教団責任役員の地位の保全をも求めているのでその当否について判断する。

申請人は前記懲戒規程が教団規則にもとづかないものであるから無効である旨主張する。たしかに≪証拠省略≫によれば教団規則中に懲戒に関する明文の規定はないことが認められる。しかしおよそ一定の目的と組織を有し、意思決定の機関を備え、構成員たる個々の人とは独立の社会的存在として活動する団体が、その目的の推進、内部秩序の維持のために、構成員たる個人に対し公序良俗に反しない限度で、固有の統制権を持つことは否定できないところであり、かつ≪証拠省略≫によれば、被申請人教団の規程は、その規則上の意思決定機関である教議会の多数決にもとづいて成立するものであることがうかがわれるから、教団規則に明文の根拠規定がないというだけの理由で懲戒規程を無効とする申請人の主張は理由がない。

右懲戒規程には、被申請人教団理事(≪証拠省略≫によれば、教団規則第七条は代表役員以外の責任役員を理事というと定めている)に対する懲戒処分として罷免の規定があることは前記のとおりである。

そして前記のように責任役員の地位にある申請人が被申請人教団の正式に決定された教団一元化の方針に反対し、協力しないだけでなく、教団の正規の機関である教議会や理事会でこれを批判する方法によらないで、所轄官庁である文部大臣に対し、教団批判の趣旨を含む嘆願書を提出したことは、たとえ申請人がそのような方法をあえて選択したことに相当の理由があったとしても、少なくとも形式的には教団の内部秩序に反する行動として評価されることを免れず、≪証拠省略≫によって認められる懲戒規程四条八号の「職務上の義務に反し」た場合に該当するといわざるを得ない。もともと教団と教団役員との関係は委任に類し、信頼を基礎とするものであることを考慮すれば、このように申請人の行為が一応規程上の懲戒要件に該当するとみられる以上、懲戒処分として責任役員罷免の処置に出ることは、当不当の問題は別として、原則として有効なものといわなければならない。

申請人は、懲戒規程が制定されたのは昭和四七年三月二五日であり、これをその制定以前の行為に適用することは許されないと主張するが、懲戒規程の適用の対象が当然にその制定後の行為に限られるべき根拠はなく、かつ教団責任役員たる者がその職務上の義務に違反してはならないことは懲戒規程の有無にかかわらず当然なことである上に、責任役員の解任には本来民法の委任の規定に準じ格別の理由を必要としないと解すべきであるから、申請人に対する責任役員罷免処分が形式上懲戒規程の遡及適用に当るとしても、その効力を否定すべきものではない。

申請人はまた申請人に対する懲戒処分は審定委員会規程の定めによる当事者の呼出をなさずに行なわれ、その処分の適法な通知をも欠くものであるから無効であるという。

≪証拠省略≫によれば、審定委員会規程八条には、委員会は当事者又は当該事案に関係ある者の出席を求め、その説明又は意見を述べる機会を与えなければならない旨の定めがあり、かつ一般に懲戒処分を行なうに際しては、当事者に弁明の機会を与えるべきことは当然である。しかし≪証拠省略≫を総合すれば、被申請人教団の審定委員会委員長松本政二は昭和四七年四月一八日ごろ、書記矢代隆、被申請人杉谷を通じ申請人の住所に居住するその妻石坂睦子に対し同年四月二五日の審定委員会に出席するよう連絡したが、右睦子が申請人の行方がわからないため連絡できない旨の返事をし、そのため、被申請人教団は当該事案に関係のある被申請人教会長代務者被申請人杉谷の出席を求めて、その説明および意見を述べる機会を与えたところ、同被申請人の代理として杉谷初野が出席し説明および意見を述べたこと、申請人に対する解任辞令書は被申請人杉谷が預り、申請人の妻睦子に電話で解任処分の事実を伝え、辞令を取りにくるよう申請人に伝言することを頼んだうえ、被申請人教会内にこれを保管していたことが認められ、これによれば、一応申請人に対し出席を求める手続をふみ、処分結果も可能な範囲で告知する手段をとったものといえるから、申請人の主張は理由がない。

申請人はさらに申請人に対する解任処分が権利濫用に当るというが、右主張を理由づける具体的な事実は認められない。その他右解任処分の効力を左右するような特段の事情を認めることはできない。

よって申請人は有効に被申請人教団責任役員の職を解かれたものであり、右地位の保全を求める申請人の申立は理由がない。

一三、結論

よって申請人の本件申請中、被申請人教会に対する教会代表役員の地位保全と給与仮払を求める部分ならびに被申請人教会および被申請人杉谷に対する被申請人杉谷の教会代表役員としての職務執行の停止を求める部分をいずれも認容し、申請人の被申請人教会および同杉谷に対するその余の申請ならびに被申請人教団に対する申請についてはいずれも失当としてこれを却下することとし、申請費用の負担については民事訴訟法九二条、九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西内英二 裁判官 山田真也 裁判官 草野芳郎)

<以下省略>

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